ゲストは、元水泳日本代表の中尾美樹さん。中学3年生でオーストラリア・シドニー(NSW選手権)にて日本記録を樹立。 1996年アトランタ五輪の代表に選出されたものの、「メダル確実!」と日本中のファンから期待されながら結果は200m5位、100m8位。その後、苦悩の日々を経て、2000年シドニー五輪・競泳女子200m背泳ぎに出場。 2分11秒05で3位入賞し、悲願のメダルを手に入れた。競技者としての天国と地獄を味わい、さらなる奮起と努力によってトップアスリートに返り咲いた経験を持つ中尾さんに、その歓びや苦労を伺ってみた。
(聞き手:BLUETAG.JP坂本仁志)
――アトランタ五輪の選考会を兼ねた日本選手権で新記録を樹立。圧倒的な強さで優勝を果たし、その後のオリンピックに臨んだ中尾さんでしたが、残念な結果に終わってしまいましたね。往時を振り返ってみて、いかがですか?
中尾 当時は高校3年生でした。本当はクロールが好きだったのですが、平泳ぎやバタフライなど、すべての泳法を泳ぐ「個人メドレー」で、背泳ぎのタイムが良かったんですよ(笑)。水泳競技に取り組む者にとって、オリンピックは晴れの舞台。「出場したい!」という一心から、タイムを出せる背泳ぎに絞って練習を重ねました。 挑戦する立場でしたから、プレッシャーはさほど感じませんでした。ただ、「オリンピックに出たい!」が目標だったんでしょうね。今、考えると、日本選手権にピークをもっていってしまったような気がします。
――その雪辱を果たしたのが、7年前のシドニー五輪でした。決勝を終え、ブロンズメダルを獲得したと分かった瞬間はどんなお気持ちでしたか?

中尾 ゴールして、自分のタイムが電光掲示板に表示され、「3位に入ったんだ!」と分かった最初の10秒間は、とにかく嬉しかったですね。でも、そのあとは涙が止まりませんでした。これまでの練習の辛さや、一所懸命頑張ってきたシーンが思い浮かんできて……。アトランタの後、何度かスランプに陥ったこともあったのですが、続けてきて本当に良かったと感じました。
――アトランタから学んだことも多かったのではないでしょうか?
中尾 水泳って、年齢的な体力の差や競技年数の長短は、あまり関係のない競技なんです。とにかく速いタイムを出すことができれば、例えば岩崎恭子さんのように(バルセロナ五輪において、史上最年少[14歳6日]で金メダル獲得)、中学生でも世界チャンピオンになれる競技です。
とはいえ、アトランタ五輪から学んだことも多かったですね。大会が終わって、メダリストとそうでない選手の扱われ方の違いを間近に感じたことが、なにより次のシドニーを目指す際のパワーになりました。周囲の声に惑わされず、指導者の先生方と相談して、自分のペースに合った環境を整えていく重要性も知りました。
悔いを残したくないから“今”を頑張る。与えられた練習をただこなすのではなくて、メニューを自分自身が吟味し、「なぜ、この練習が自分に必要なのか?」を理解して取り組むクセを身に付けるきっかけになったと思います。
――ご家族や友人の献身的なバックアップもあったのでは?
中尾 私、高校入学と同時に郷里の長崎から大阪に一人でやってきたんです。以来、寂しくなったり辛いことがあると、時折母に電話をしていたんですが、その時々にかけてくれた励ましの言葉が心の支えになりましたね。また、大学時代の友人たちの何気ない言葉にも助けられました。
――悲願のメダル獲得には、コーチの存在も大きかったようですが。

中尾 はい。これまで多くのコーチにお世話になりましたが、とりわけスランプに陥っていた大学時代、イトマンスイミングスクールの加藤浩時コーチ(現・同スクール代表取締役社長)には、さまざまな場面で勇気づけられました。頑張りたい! でもタイムが伸びない。どうしたらいいかわからず途方に暮れていた私に声をかけてくれたのが、当時はあまり現場では指導されることが少なくなっていた加藤コーチだったんです。次のシドニーで「メダルを取りたい」という私に、「だったら俺についてこい。必ずメダルを取らせてやる」といってくれた加藤コーチの言葉に奮起させられました。それから2年間、つきっきりのコーチング。厳しい毎日でしたが、精神的にも技術的にも向上できたかけがえのない2年でした。
――思い出に残っているエピソードはありますか?
中尾 練習がしんどくなると、「一回でいいから熱を出して1日ゆっくり休みたいな……」なんて甘えもでてくるんですよ(笑)。そんな時、たまたま風邪をひいて熱を出しました。コーチに「休ませてください」とお願いにいったんです。ところが、コーチは「泳げ!」という。せっかく休めると思っていたのに叱られて気分的に最悪な状態。体調も悪いから、当然、思うように泳げませんよね。へこんでいた私をコーチが呼びとめ、こういったんです。「今、この瞬間が五輪の決勝だったらどうする?」と。
それからは、自分に甘え、人に何かを求めるんじゃなく、「今、やれることをやろう!」という気持ちになりました。コーチの一言が、冷静さを取り戻してくれたような気がします。
――天性の才能や技術はもちろんですが、アスリートにとって最終的に重要なのは精神力……ということでしょうか。ところで、中尾さんは現在、母校・近畿大学に勤務され、学生たちが社会へと巣立っていく場面を数多く見つめていらしたことと思いますが、アスリートが“一流のアスリート”に育っていく過程には人間的な成長こそが必要なのかもしれませんね。
中尾 私が勤めているのは、大学内のキャリアセンターにある「キャリア支援課」。さまざまな学生に就職面でのアドバイスをする立場にあります。が、スポーツ部に所属する学生たちの相談に乗ることも多いですよ。相手が体育会系と分かると、ついつい熱くなっちゃうんですけど(笑)。
この仕事に就いて感じたことは、今の学生たちって安易に答えだけを求めてくる傾向があります。自身の経験から自分なりの答えを見出して、それから他者に意見を促し、耳を傾けるのではなく、最初から誰かに答えを見つけてもらおうとするんですよね。これは、スポーツにも共通していえることだと思うのですが、何事にも目的意識を持つことが大切だと考えています。仕事もスポーツも、自分が楽しいと思えない限り、辛さや苦労は乗り越えられないですから。
――さて、競技を引退され、現在は第一線から退いた中尾さんですが、スポーツとの接点は今も持ち続けていらっしゃるのですか?
中尾 えぇ。同じ「泳ぐ」というつながりから、近年は「ライフセービング」に親しんでいます。また、ライフセービングを通して「オープン・ウォーター」や「トライアスロン」といった競技も身近に感じられるようになって、それぞれの競技に取り組むアスリートの知人が増えました。ちなみに、オープンウォーターは新たに北京五輪の正式種目にも選ばれた海の遠泳競技です。こうした繋がりから、スポーツの見方や注目度に変化がありました。ほかにも、先日大阪で行われていた「世界陸上」を観て、最近は陸上競技の世界にも興味が湧いてきました。水泳と一緒で、陸上はタイムを競い合う競技ですよね。タイムがすべてではあるんですが、そこにはさまざまな競技者たちの“ドラマ”があります。実際に足を運んで観戦すると、感動の度合いがまったく違いますよ。皆さんも興味を持って、スポーツの楽しみ方を増やしていただきたいですね
――注目されているBLUETAGアスリートもいるとか?

中尾 そうなんです。以前TVで冬季五輪を観ていたとき、「スノーボードクロス」の迫力とそのインパクトにびっくりしたことがあるんです。そして、BLUETAGが支援しているアスリートのお一人に桐村良太さん(スノーボードクロス・アスリート)がいるとわかって(笑)。スポーツって、応援する対象となる選手がいると、俄然感情移入できちゃいますよね。今年の冬は桐村選手の動向に注目しながら、スノーボードクロスの魅力にもっと触れてみたいなぁ、と考えています。
私自身アスリートだった頃は、応援してくれるファンがいると、それが確実に力になりました。逆に、今のような一観戦者としてスポーツを応援する側に立った時、「こんなルールのスポーツがあるんだ」とか、「こんな選手が頑張っているんだ」といった新しい発見が、人生を豊かにしてくれることもあると思うんです。私たちが多種多様なスポーツに興味を持つことが自分自身のライフスタイルにスパイスを添えることにもつながりますし、日本のスポーツシーンが、アスリートが、変わっていくきっかけにもつながっていくと思っています。
[プロフィール]
ゲスト・中尾美樹
長崎県長崎市出身。元・水泳女子200m背泳ぎ日本代表。1999年、自ら持つ日本記録を更新。200m背泳ぎの日本記録(2分10秒32)をマークし、シドニー五輪に出場。2分11秒05の記録で3位となり、日本女子水泳界に通産8個目となるメダルをもたらした。大会後、引退。現在は近畿大学東大阪キャンパスに勤務し、キャリアセンター・キャリア支援課のスタッフとして学生たちのサポートにあたっている。

コメント (4)
やっほー!美樹ちゃん!真知子です。頑張ってるね†!!なかなか充実しているみたいで、素敵でした!岡山の親戚を代表して誇りの美樹ちゃんをこれからも応援し続けます。また岡山にくる時間があったら連絡してね!
2008年日本選手権行きました。大会に興奮し、後ろの席の
田中さんと中尾さんと写真を撮らせていただいた。
中尾さん「わたしも?」といっていましたが当たり前!!
‘もちろん‘に決まってるジャン!
最高の日本選手権でした。
お久しぶりです。
すっかりお綺麗になって☆
お元気そうで何よりです!これからも持ち前の美樹スマイルで皆に勇気を与え続けて下さいね♪
応援してますよ!!!
こんにちは。
中尾さんから、今メールが来て見て下さいと書いてあったので
見てみました。素敵な取材で、心温まりますね。
ありがとうございます。
矢島実